アーユルヴェーダ鍼灸とは

ホームページのトップにもある通り、私は自分の鍼灸施術を「アーユルヴェーダ鍼灸」と銘打っています。それは実際、「自称」に過ぎないのが正直なところです。誰かが私の鍼灸をアーユルヴェーダ鍼灸と呼んで下さったわけではありません。ただ学んでいった過程で自分の鍼灸を銘打つとしたらこれが良いと思ったのです。実際に、アーユルヴェーダ的要素と鍼灸の要素を盛り込んで施術をしています。しかしそれは表面からみたら全く理解できないと思います。きっとアーユルヴェーダをちゃんと学んだ人からみたら怒られます。しかしアーユルヴェーダを普通に学んできた人よりも効果的で真髄を捉えた施術ができるという自負はあります。

 

ブログ「私の師」を読んでいただいた方はご存知の事と思いますが、私の師はインド哲学を実践によって極められています。その影響の下に、私の施術は存在しています。そのためインド哲学の真髄が私の施術の根幹をなしているのです。

 

「アーユルヴェーダ」とは、「生命の科学」という意味です。元々は「ヴェーダ経典」のほんの一分野として存在しています。「ヴェーダ」とはインドに古くからある経典で、真理に至る方法が書かれています。生命の様相の根本的なものはこのヴェーダの範疇に含まれます。私はその事に関して、師を通じて学んでいます。それを施術に活かしているのです。

 

どう活かしているかというと、その探求の過程で私は「どこに鍼を打てばよいのか分かるようになった」ので、それによって効果的な施術ができるようになっています。どのように効果的なのかはブログ「私の施術」を参照いただきたいです。

 

このようなわけで、私の施術の根底がインド哲学に支えられているのですが、アーユルヴェーダを全く勉強していないわけではありません。独学ではありますが、アーユルヴェーダの書籍を通してアーユルヴェーダへの理解を深めていきました。根本的なヴェーダの部分を学んでいたせいか、思った以上に理解しやすく、施術や診断に応用する事ができました。

 

アーユルヴェーダを明確に応用している点を挙げなさいと言われたら、トリ・ドーシャ理論からくる体質診断を、養生と刺激量の調節に活用しているという事になります。トリ・ドーシャ理論とは人の体質の型をヴァータ・ピッタ・カファの3種に分類し、その傾向を通じて自己管理する方法を説いたものです。アーユルヴェーダの書籍を読むとほとんどがこのトリ・ドーシャの解説の内容となっています。その事からも、アーユルヴェーダとは「施術の方法」ではなく「養生法・自己管理法」である事がわかります。

 

鍼灸を通して学ぶ中国伝統医学は、陰陽の調節を通して人を健康に導く事を説いています。最も大きい括りは陰陽ですが、そこから五臓六腑、気血津液と内容を具体化していき、その変動を調節する事を説いています。いずれにしても偏ったバランスをニュートラルに戻す事が施術の目的です。ではニュートラル(平衡状態)とは何か、その事についての具体的説明は中国伝統医学の中にはどこにもないのです。

 

なぜかというと、人によってニュートラルの状態が異なるからです。それは「健康」について一概に言えない事と似ています。そのニュートラルについて具体的に説明しているのがアーユルヴェーダのトリ・ドーシャ理論なのです。人によって健康体の型が違う事を説いた画期的なものです。これは人を診る上で活用しない手はないという事で、取り入れる事になったのです。

 

また、アーユルヴェーダのトリ・ドーシャ理論は中国伝統医学の気血津液の考え方と重なる部分があります。簡単にいうと、ヴァータは気が変動しやすい体質、ピッタは血が変動しやすい体質、カファは津液が変動しやすい体質です。詳しい説明はここでは割愛しますが、このように中国伝統医学の理論とも相性が良かったために取り入れるに至ったのです。だから中国伝統医学の仕組みも十分理解しています。そうでなければ応用できません。

 

ちなみに『アーユルヴェーダとマルマ療法』という本にアーユルヴェーダ鍼灸についての論文が掲載されています。もちろん私の論文ではありません。世界ではアーユルヴェーダ鍼灸というものが見いだされ、実践されているという事です。この論文には3体質に向けた鍼灸の刺激量に関する情報が整理され記載されています。理論上、大いに納得するものがあり参考にさせていただいています。本の内容をただ真似しているわけではなく、自分の施術に合わせて応用させていただいています。

 

そのようなわけで、私の施術や考え方はインド哲学、アーユルヴェーダが切っても切れない関係になっているので、自称ではあるが「アーユルヴェーダ鍼灸」と銘打っています。アーユルヴェーダには中国伝統医学を超えた深い生命観があります。この事を自分の施術の内に込めたいという願いもあるのです。

 

アーユルヴェーダはアジアを始めとした全ての医学のルーツと言われています。日本に至るまで、アーユルヴェーダはチベットを経て中国にわたり、中国伝統医学の形をとって日本に輸入されました。その中で中国で随分、形を変えるに至りましたが、チベットにおいてはほとんどアーユルヴェーダの原型を残したまま伝わる事となりました。それが現在のチベット医学です。

 

『チベット医学の真髄』という本を読むと、その理想とするところがアーユルヴェーダの真髄を説いていると思えてなりませんでした。以下、その内容を引用します。

 

「チベット医学の根本的な目的は、ホメオスターシス(心身の調和)を実現するだけでなく、患者と医師の双方が霊性の悟りを開く事にあります。」

 

「チベット医学で最も尊いとされる癒しの手段は、ボーディチッタすなわち菩提心と呼ばれる慈悲の心です。(中略)深い慈悲心をいだいて治療にあたる医師は、生薬や治療法を単なる手段として用いる医師よりもはるかに高い治療効果を挙げるというのが、世界各地に散らばって暮らすチベット人に共通する見解です。(中略)チベット医学は学問の一分野であると同時に技術、思想でもあり、心の豊かさを追求する道でもあって、この医学の扉を開けて理解するためのカギとなるのが慈悲心です。チベット医はそのような手段によって治癒効果の持続、症状の緩和、ひいては悟りの完成を目指すのです。」

 

 

心身の調和のみならず、人生の完成を目指す。正に東洋の伝統医学の理想とする道といえるのではないでしょうか。このような伝統医学の従事者が増えたらどんな世界になるだろうと思います。この理想を目指して、伝統医学の道を究めていきたいと思っています。