ホリスティック(全体的な)武術

『カラリパヤットの諸相-南インド、ケーララ州におけるマーシャルアーツの実証的研究-』(高橋京子著)という論文で、「カラリパヤットはホリスティックなマーシャルアーツである」と紹介しています。

 

「ホリスティック」という言葉は主に医療の分野で使われており、「身体面だけではなく、精神や霊気などを含めた全体を治療として捉える医療」という意味の言葉として使われています。元々「全体的な」という意味の言葉に由来するそうです。

 

なぜカラリパヤットが「ホリスティック武術」として紹介されているかというと、カラリパヤットが①身体トレーニング②医学③信仰という3つの要素で構成されているためと論述されています。

 

①身体トレーニングと②医学に関しては前のブログでご紹介した通りです。カラリパヤットでは武術を修練し、その過程でプラーナを体得し、最終的にはマルマ施術を行えるセラピストになります。

 

③信仰に関しては、カーストを超越したカラリパヤット独自の信仰の土壌があります。カラリパヤットの道場にはプータラという祭壇があり、女神を意味するとされています。祭壇は階段状に7段の段差があり、これは人間の腺と対応すると言われています。このことからカラリパヤットと医学との結びつきを伺う事ができます。また、プータラの地上からの高さは全長27ヴイラルというサイズであり、最下段の円周の長さも同様との事です。この「27」という数字は宿星の数と同じとされており、「全ての人を受け入れ、宗教やカーストを一切問わない」というカラリパヤットの特異性を象徴していると言われています。身分制度であるカーストの影響力が強いインドにおいて、カラリパヤットにおいては性別、カースト、宗教を一切不問とし門戸を開いているのです。

 

カラリパヤットは、人間の価値観を超越し、普遍的な真実に基づいて成立している武術のように思えます。武術により、目に見える肉体をコントロールする方法。信仰により、目に見えない霊性を高め、心とプラーナをコントロールする方法。そしてこの2つを自分だけではなく他者に活かす医術の側面という、自己錬磨を他者に還元する仕組みとなっています。これがカラリパヤットの他の武術に類を見ない素晴らしさだと思います。

 

私はカラリパヤットを習得しておりませんが、このカラリパヤットの精神を落とし込んだ人間性、体育、施術を身に付け、多くの方に還元できる人間になりたいと思い努力させていただいております。